今回は、アーティスト、バンド、ミュージシャンにとって、公式サイト、オフィシャルサイトの必要性について考えてみたいと思います。
近年ソーシャルネットメディア (SNS) の発達・普及により、アーティストやインフルエンサーによっては自身のオフィシャルサイトを作らずに、X、インスタ、YouTube、TikTok など各SNSアカウントを駆使したり、そのSNSのリンクをまとめリンクサービス、例えば Linktree などを利用して管理、プロフィールに貼るというのが一つのスタイルになっています。
このような流れ、トレンドからか、アーティストやバンドがオフィシャルサイトを持たなくても良いのではないか?と思う人もいるかもしれませんが、そのような見解は時期早々ですので、以下でアーティストにとっての公式サイト、オフィシャルサイトの必要性とはどんな所にあるのかについて、詳しく解説したいと思います。
というのもオフィシャルサイトを持たないアーティストの特徴として以下のような点があることです。
以下でこのトピックを詳しく見てみましょう。
・既にメジャーレーベル (レコード会社) と契約している
多くの例としては、水面下でメジャーレーベル、大手レコード会社と契約しており、話題作り・バズを起こすために最初からアーティストの詳細を語るオフィシャルサイトを用意せず、ソーシャルネットで「このアーティスト、バンド誰だろう?」というようなバズや話題を起こす流れを作ることにあります。
また、大手レコード会社 (例えばソニーなど) に所属している場合、レコード会社のドメイン内にアーティストページ (オフィシャルサイトとしても併用できる) を用意し (例えば yama)、そのアーティストが有名になってから、課金させるファンクラブなどのプラットフォームを立ち上げる傾向にあります。
このようなアーティストの場合、大手レコード会社から独立する際にオフィシャルサイトを立ち上げるケースが多いと思います。というのも、大手レコード会社やメジャーレーベルに所属している場合、その強力な資本力、音楽業界のパワーにより随時ニュースリリースやプレスリリースをトップダウンで流すことができ、他にも企業やアニメ、ドラマ、映画作品とのタイアップなどの話題性を用意することができるため、オフィシャルサイトを用意しなくても、常にフレッシュで流動的なニュースを提供できるという大きなメリットがあります。
このような背景から、大手レコード会社に所属する新人アーティストの場合、近年ではSNSのみというアーティストも増えているものだと思います。
・新人バンドで公式サイトを持っていない
一方で、このような流れも受けつつ、SNS全盛期の新人アーティストやバンドの場合、売出し中で所属事務所やレコード会社との契約を模索している場合、オフィシャルサイトを作らずに、X (旧Twitter)、TikTok、YouTube、Instagram など、SNSでの情報発信に力を入れ、アーティストやバンドが話題となり、晴れてレコード会社と契約し、メジャーデビューシングルやデビューアルバムを発表するタイミングでオフィシャルサイトを立ち上げる、というケースもあると思います。
このような話題性作り、「あのアーティスト誰だろう?」というSNSで話題にさせるために、敢えてオフィシャルサイトを最初は作らないという事例も多いため、最近の話題のアーティストがオフィシャルサイトを作っていない = オフィシャルサイトを作るのはダサい、というのは少し見当違いになるかと思います。
また近年、X (旧Twitter)、YouTube、TikTok などSNS経由で次々に新しい世代のアーティストがデビューしており、SNSが全てというような風潮もありますが、それは表の面しか見ていないことになります。
実際に多くのアーティストが初期の成功を長期的なキャリアに繋げられずにいるのが実情です。SNSなどで一時的に話題を集めてデビューした多くのアーティストは、その人気を維持することができず、デビューアルバムは売れたものの、2枚目以降は散々だった … というように、使い捨てのようにアーティストのターム (期間) が短くなっているのも現実です。
それもそのはずで、SNSや一時的に人気、話題、流行 (トレンド) というのは移り変わるもので、SNS で一時的な大きなバズを起こして鮮烈なデビューをしたとしても、それを維持して人気を保ちアーティストとして成功するというは非常に難しいものなのです。
ここ数年も多くのアーティストが TikTok 経由でデビューしていますが、人気を持続させて生き残るは僅かであり、その裏では新陳代謝が活発に行われ、デビューして消えていくアーティストも星の数程いるのです。
長期的な成功、細く長く自分の好きなことを続けるには、流行やトレンドに左右されない本質的な戦略を採用することが大切だと思います。
一部のSNSやプラットフォームに依存することは非常に危険です。例えば、Twitter がイーロン・マスクに買収されたことにより、かつてのような公共性やインフラとしての役割は消え失せ、インプレッションやPV稼ぎの巣窟として、ある意味闇堕ちしてしまいました。
SNSプラットフォームは、サービスの規約変更や買収、プラットフォーム自体の人気の変動により、予期せずに影響を受ける可能性があります。たとえば、特定のコンテンツが規制されたり、アルゴリズムの変更により投稿の見え方が大きく変わることがあります。
思い出して頂きたいのは、かつて MySpace (マイスペース) というエンターテイメントやアーティスト・バンドに特化したソーシャルネット・サービスがありましたが、もう数十年前に廃れてしまっています。
同じように、かつては勢いのあった SoundCloud や 8tracks は、その勢いを失っています。このようSNSも世代交代や流行の変化によって移り変わりが激しく、ずっとデファクトスタンダードであり続けるSNS、プラットフォームというのはかなり稀なことです。
対照的に、自身のWEBサイト・オフィシャルサイトであれば、このような流行や外部要因の影響を受けにくく、安定して自分の世界観をオフィシャルサイトを通して発信することができます。
アーティストのオフィシャルサイトと言えば、ニュース、プロフィール、ライブ、ディスコグラフィ、ミュージックビデオなど、アーティストに関するほぼ全ての情報・最新情報が見れるものというような位置づけがあったと思いますが、ソーシャルネットメディアの普及と共に、アーティストサイトの意味合いも少し変わってきているのも現実です。
欧米では現在、オフィシャルサイトの意味合いは、アルバムリリースやツアーに合わせて、その世界観を最大限に伝えるものとして定着しています。
例えば、Harry Styles の現在のオフィシャルサイトは、最新アルバム『Harry’s House』の世界観を伝えるオフィシャルサイトとなっています。トップページにアルバムのジャケットと視聴リンク、アルバム・ジャケットのカラーやフォントに合わせたデザインで、収録曲のミュージックビデオが配置されています。
2023年にブレイクしたベイエリア出身のシューゲイズ・アーティスト Wisp のオフィシャルサイトも、デビューEP『Pandora』をフィーチャーしており、本作を携えてのツアー情報とマーチの紹介がメインに掲載されています。
Hiatus Kaiyote も同様に、2024年6月28日にリリースするニューアルバム『Love Heart Cheat Code』をプロモーションするオフィシャルサイトになっており、アルバムのマーチやニューアルバムを携えたツアー情報がメインに掲載されています。このように、現代のアーティストのオフィシャルサイトの役割は、最新作品を全面にフィーチャーしてその世界観を発信する場所になっています。
以上のことからも、現代におけるアーティストサイトの意味合いとは、その時その時のアーティストの世界観 (作品や状態) を伝える場所として機能していることが伺えると思います。
オフィシャルサイトは、アーティストの世界観を確立し、情報を発信する最適な場です。SNSは流行に左右されやすく、プラットフォームごとに異なる規制や制限がありますが、自分のウェブサイトではデザインからコンテンツまで、完全にコントロールすることができます。
オフィシャルサイトは、アーティスト自身が完全にコントロールできる唯一のプラットフォームです。SNSでは、デザインのカスタマイズが限られており、しばしばプラットフォームの流れや変化に従う必要がありますが、自身のウェブサイトでは全ての面で自由にブランディングを行うことができます。これにより、アーティストは自分の世界観を自由に表現し、ファンに一貫したイメージを提供することが可能です。
オフィシャルサイトは、アーティストに関する情報を一箇所で総合的に提供する場となります。ニュース、プロフィール、ライブ情報、ディスコ情報など、複数のSNSチャンネルをまたがって情報を探す手間を省きます。また、SNSのコンテンツ (YouTube ビデオや Spotify のプレイリストなど) を自由にサイト内に組み込むことができます。
アーティストにとってオフィシャルサイトは、自身の世界観を発信する最高の場所だと思います。しかし、絶対用意しなければいけないものではなく、そのアーティストやバンドの現状、どのように自分たちの音楽やカラー、個性を世に広めていきたいか?によるものだと思います。
例えば、日本を主戦場としてメジャーデビューを飾りたいという場合は、まずはSNSで自分達のサウンドを広め、話題性を集めて、レコード会社のA&Rや、音楽業界の関係者の目に留まるようにすることで、メジャーデビューという目標に近づくかもしれません。
また、日本だけではなく世界で勝負したいという場合は、話題性など単発的な興味を引くものに注力するのではなく、音楽性や技術を高めることに重点を置き、作品をリリースしていきながら、アーティスト、バンドの世界観を徐々に広げていくことが求められると思います。
注意したいケースとしては、トップダウン的な、上からの売るための戦略を採用する場合、ハイプと化すのも早く、音楽がすぐに消費されてしまうということです。資本の力で何かを意図的にバズらせようとする試みは、消費者や行動経済学を研究して行われていますが、大きなバスを生み出す反面、その流行り廃りも早く、結局は一発屋や一時期の流行りで終わってしまうことも少なくないということです。
SNSの発展により、誰もがバズることを目的としてしまい、本質的な音楽の価値が見失われてしまっているのが現代だと思いますが、アーティスト、バンドとして長期的に活動を行うには、長期的な視点が必要であり、公式サイト、オフィシャルサイトを立ち上げることは、以前と変わらずアーティストやバンドにとって非常に価値のあることだと思います。
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